お知らせ

2024年3月14日

津山商工会議所 所報4月号『今月の経営コラム』

潮流を読む

「水準の低さが目立つ世界経済と世界貿易の直近の平均成長率」

 

 世界銀行は、1月の「世界経済見通し」において、「世界経済の成長率は2024年末までに、5年間のGDP成長率が過去30年で最低の水準になる」とした[注1]。「2023年の2.6%から2024年は2.4%と3年連続で鈍化し、2010年代の平均をほぼ0.75%ポイント下回る」との見通しを示している。他方、1年前より唯一好転しているポイントとして「主に好調な米国経済により世界同時不況のリスクが後退した点」を挙げている。それ以外の経済指標には「地政学的緊張の高まり」が影を落としてきているとした。特に、世界銀行は「大半の主要国における成長鈍化」とともに、「世界貿易の低迷」を挙げており、「2024年の世界貿易の成長率は、コロナ前の10年間の平均と比べ、その半分にとどまる」との見通しを示している。

 

 この点について、23年10月に世界貿易機関(WTO)[注2]は、23年の世界の商品貿易額の伸び率(貿易成長率)の見通しを、前回(同年4月)の1.7%の半分以下の0.8%に下方修正した。その一方、24年の前回見通し(3.2%)に対し、今回は3.3%と下方修正こそしていないが、同時にグローバル・サプライチェーンの分断化の兆候が見られるとし、世界貿易の構造的な変化に対する懸念を示している。その根拠として、例えば、世界貿易に占める中間財の割合というグローバル・サプライチェーンの活動量を示す指標の過去3年間の平均51.0%が、23年上半期には48.5%に低下したことを指摘している。24年世界経済の成長率は、過去の景気循環のセオリー(インフレが落ち着き、金利が低下し始めると貿易成長率が安定すること)通りであれば、23年対比で貿易成長率の伸びが回復することで鈍化は懸念されるものの、緩やかに上昇する見通しである。

 

 貿易成長率の回復が想定通りとならないリスクとしては、グローバル・サプライチェーンの分断による保護主義(自国産業の保護などを目的に、自由貿易に反対し、関税や輸入制限などの保護貿易政策を採用する主義)の台頭が考えられる。さらにその先にある、広範な脱グローバリゼーションの実現という大国の孤立主義(他国との同盟関係や国際組織への加入を避け、独立した外交政策を維持する主義)への転換の可能性という大きなリスクも考慮していく必要があろう。24年は世界的な「選挙イヤー」と呼ばれている。中でも、11月に予定されている米国の大統領選挙と下院選挙、6月の欧州議会選挙などの結果による保護主義の台頭の懸念などを踏まえて、世界の貿易成長率を見通しておく必要があるだろう。

 

 WTOのンゴジ・オコンジョ・イウェアラ事務局長は「世界経済の分断はこれらの課題(貿易の減速は、世界中の人々の生活水準に悪影響)を悪化させるだけであり、WTO加盟国は、保護主義を回避し、より強靭(きょうじん)で包摂的な世界経済を育成することにより、グローバルな貿易の枠組みを強化する機会を捉えなければならない」と強調している。紛争解決能力の再構築などに取り組みながらWTOの枠組みを維持し、グローバル規制下でのグローバル貿易の自由主義を守っていくことが必要である。しかし、その基盤となる国際協調を重んじる規範の共有が難しくなっている。この部分において、保護主義、孤立主義を強める国々の大幅な民意の軌道修正がなされない限り、20年代は世界貿易成長による世界経済の成長の機会を生かせなかった10年として語り継がれることになるかもしれない。(2月20日執筆)

 

[注1]世界銀行「世界経済、過去30年で最低の水準へ」2024年1月9日
https://www.worldbank.org/ja/news/press-release/2024/01/09/global-economic-prospects-january-2024-press-release

[注2]世界貿易機関「世界貿易の見通しと統計 - 更新:2023年10月」2023年10月5日
https://www.wto.org/english/res_e/booksp_e/gtos_updt_oct23_e.pdf

 

著者プロフィール ◇内野 逸勢/うちの・はやなり

 静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。

 


 

中小企業のためのDX事例

「社長の試行錯誤と技術者の実践力」

 

 錦正工業株式会社は栃木県那須塩原市にある、従業員35人の鋳造業の会社です。「鋳造加工一貫生産」を掲げ、半世紀にわたるロングセラー商品「Vプーリー」をはじめ、さまざまな工業製品を製造しています。今回は同社が自分たちでつくり、使ってみた現場データ化のDX事例をご紹介します。

 

 社長の永森さんは「別にIoTやDXをやりたかったわけじゃない」とのこと。その背景には経営者として会社の課題に向き合ってきた経験があります。永森さんの入社時、社内では手書き伝票とそろばんが使われ、現場ノウハウは職人の暗黙知になっていました。経営するには社内で発生する事象をデータ化し、それに基づいて意思決定を行う必要がありました。

 ただ、システム構築への高額投資は難しく、自分たちでデータ化・DXを進めることを決意しました。まずは通信ネットワークや簡単なサーバー導入、次に使いやすい生産システムを自分たちでカスタマイズしながら構築しました。そして最大の課題は現場データの自動取得でした。永森さん自らプログラミング勉強会に参加するなど、いろいろと取り組んだものの、なかなか実装には至りませんでした。

 

 しかし、さまざまな活動に参画し仲間づくりと悩みの共有を続けた結果、鋳造とソフトウエアの知識を持つ技術者と出会い、入社してもらえることになりました。入社後2年半でライン稼働モニター、電気炉モニター、分析値モニター、木型・中子IC管理など、多くの重要情報のデジタル化を実現しました。ソフトやツールも無料可視化ツールのオープンソースソフトウエア、フィリップスやシャオミの民生品など、無料・格安でありながら最先端のものを積極的に使っています。

 

 このDX事例からは、経営者自らが調べて取り組むこと、そして勉強会など社外コミュニティへ何年間も積極的に参画し、貢献することの重要性を学びました。会社の外に出ることで思いに共感してもらえ、ハードとソフトが分かるエンジニアと出会えて、やりたかったことがスピード感を持って結果的に非常に廉価でできるようになりました。また導入過程も試作(プロトタイプ)ベースで試行錯誤型(アジャイル)に進められていますが、これも社長の正確な知識と明確な意思によって実施できていると思います。

(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)

 

著者プロフィール ◇大川 真史/おおかわ・まさし

 ウイングアーク1stデータのじかん主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。専門はデジタル化による産業構造転換、中小企業のデジタル化。オウンドメディア『データのじかん』での調査研究・情報発信が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、エッジプラットフォームコンソーシアム理事、特許庁Ⅰ-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。i.lab、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。

 


 

職場のかんたんメンタルヘルス

「相手の話を聞くときのコツ」

 

 「傾聴」という言葉が市民権を得て久しく、職場でも相手の気持ちに添った聞き方を実践、もしくは心掛けている人が多いのではないかと思います。しかし、組織は指示命令系統で成り立つものでもあり、部下の気持ちをくんで「この仕事嫌なんだね? それなら、やらなくていいよ」というわけにはいきません。また、「君のやりたいことは何?」と確認したところで、その仕事を任せられるとも限りません。そうしたジレンマを感じているといった相談も多く受けます。

 

 相談に乗る、悩みを聞くといった場面での傾聴は必要ですが、実は指示や指導にそれを持ち込んでしまうと、正確な指示が伝わりづらくなり、業務自体が滞る可能性が高まります。ですから、場面に応じて使い分けることが大切なのです。

 

 また、気持ちを聞くといっても、相手が満足するまで長々と付き合う必要はありません。忙しくて時間が取れないことも多いと思いますので、「時間の構造化」といって、目安の時間を決めることが重要です。特に、相手が相談者に対して依存的になっているときは、話せば話すほど不安になっていく傾向もあり、時間が決まっている方が安心です。カウンセリングで時間の枠を設けているのはそのためでもあります。

 

 聞く側も、いつまでも終わらない話を聞くとなると、集中力がそがれますから、お互いにとって良い方法です。「これから20分話を聞くね。それで終わらないようなら、改めて時間を設けよう」といった声掛けができると良いかと思います。そして、「聞く」ことに徹するためには、相手が話した内容の確認を心掛けてください。「ああそうなのね」と聞き流すのではなく、「○○が△△なのね」と具体的な言葉で受け止めることが必要です。正確に受け止めると、話す側は「聞いてもらえた」という感覚が強くなりますし、聞く側の認識違いも修正できます。短い時間でも、こうしたやりとりは十分可能ですので、必要に応じて時間を決めて「気持ち」を聞く場を設定するのが、「聞く」ことを最大限に活用できるコツです。

 

著者プロフィール ◇大野 萌子/おおの・もえこ

 

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、公認心理師、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで5万人以上を対象に講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書にシリーズ51万部超『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)ほか多数。

 


 

トレンド通信

「おいしさ運ぶ容器も進化している」

 

 広島のソウルフードといえばお好み焼きです。お好み焼きにまつわる面白い話を聞きました。広島県民のお好み焼き愛は強く、コロナ禍でお店での飲食が難しくなった時期には、テイクアウトの利用が大きく増えました。しかし、ここに新たな問題が生じました。

 

 広島のお好み焼きは、キャベツも生地に練り込んで焼く大阪のお好み焼きとは違い、薄く焼かれた生地の上にキャベツをたっぷり山盛りにのせてつくります。この大量のキャベツから出る水分量がとても多いのです。熱々のお好み焼きをプラスチックの容器に入れて持ち帰ると、ふたに付いた湯気が水滴となって下に落ち、薄い生地に染みてしまいます。せっかくつくりたてを買っても、食べるときには全体がべちゃべちゃになってしまうのです。

 

 この問題を解決するために、お好み焼き専用の持ち帰り容器を開発した会社があります。

 プラスチックや紙などさまざまな素材で食品パッケージをつくる株式会社シンギ(広島市)が開発したのは、サトウキビの搾りかすを原材料にした厚手のボール紙のような素材です。これを成形し、ふたには湯気が水滴化しないように適度な吸湿性を持たせ、底にも水滴がたまらないような構造を取り入れました。

 この容器は熱や低温にも強く、テイクアウトの用途だけでなく、冷凍にしたお好み焼きの容器として、通販や県外での販売にもひと役買っています。東京にある広島県のアンテナショップでもこの容器を採用したお好み焼きが買えます。

 

 容器・包装資材が広域の運搬に対して商品の価値を保つ例は、ほかにもあります。例えば、高知県はニラの生産量と出荷量が日本一ですが、京阪神や関東圏など大消費地から遠く離れています。せっかく良いものをつくっても、それが消費者のもとへほかの産地と競争力を保った状態で届かないとビジネスにはなりません。

 そこで、高知県が主導して開発したのが、出荷するときにニラを包む筒状のプラスチックフィルムを工夫して鮮度を保つ技術でした。収穫したニラをこのフィルムに入れて封をする際に、ニラから出る炭酸ガスの量を制御できるようなシール法を開発しました。これによって、鮮度を保てる期間が延びたため、京阪神はもとより、首都圏まで高知のニラは届けられています。また最近ではこのフィルム自体をさらに薄くして使い勝手を高め、技術を進化させています。

 

 流通業界を圧迫する2024年問題もあって、おいしいものをおいしい状態を保ったままどうやって消費者の元へ届けるかは、大きな課題でもあり、さまざまな素材やシーンで新しい提案が求められている分野です。また、通信販売や出前配送(デリバリー)などでは、消費者の食卓まで、出来上がったものをつくり手が届けることも求められています。

 消費者はより高度なものを求め、ますますわがままになります。モノやサービスを届ける事業者にはとても厳しい状況ですが、逆にいえばそこにビジネスチャンスがあるのです。

 

著者プロフィール ◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ

日経BP 総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。

 


 

気象予報士×税理士 藤富郷のクラウドな話

「鉄道貨物が物流の救世主に」

 

 先日、鉄道がテーマのテレビ番組に出演し、「貨物鉄道輸送」についてお話しさせていただきました。貨物列車を引く機関車が好きで、趣味的な話題が中心でしたが、ほかの出演者とも深く話していくうちに、「鉄道貨物はこれから日本の物流を支えていく大きな存在になるのではないか」という考えを強める良い機会にもなりました。

 

 現在、国内の貨物輸送のうち鉄道が占める割合は、わずか5%ほど。5割を自動車が、4割を船が占めています。

 鉄道貨物はこれまで、環境に優しいというメリットをアピールしてきました。実際に、二酸化炭素の排出量はトラックの11分の1と、環境負荷の小さい輸送機関です。ただ、環境への取り組みは会計帳簿に数字として載せないため、企業にとっては成果が見えにくく、経営の視点から判断しづらいところです。そのため、機動力の高さなど、メリットが分かりやすいトラック輸送が主流となってきたのです。

 そのような中、最近は深刻な問題が発生しつつあります。トラックドライバー不足の問題です。その原因としては、働き方改革関連法の施行による2024年問題や、団塊世代のドライバーの引退などがあります。加えて、労働力人口減少により、新規ドライバーも減ってきています。物流需要がどんどん高まるのに反して、輸送能力は下がる一方です。やがてこれまで通りのやり方は通用しなくなります。

 

 そこで、注目したいのが鉄道貨物です。貨物列車は10トントラック65台分を一編成で運ぶことができます。つまり、トラック輸送では65人のドライバーが必要になるのが、たった1人の貨物運転士だけで運べるのです。これはドライバー不足に対応できるだけでなく、トラック輸送を近距離のみに集中させることもできます。

 

 鉄道貨物のデメリットは、コンテナの積み込みの手間と時間がかかる点です。最近は「東京レールゲート」のような、貨物駅の隣でトラックからコンテナへ積み替えをスムーズに行うための巨大センターができています。今後、通常は大型トラックに固定されている荷台全てを分離可能なコンテナにし、サブスクでいろんなコンテナを利用できるサービスを開始し、さらに、自動で貨車に載せ替えるような仕組みができれば、積み替えの手間も省けて停車時間の大幅な短縮が可能になりそうです。

 これからの時代、県をまたぐ輸送は鉄道貨物に切り替えることで、物流を維持でき、経済の発展にもつながるのではないでしょうか。

 数々の機関車に連なる貨物列車は、荷物と一緒に次世代への希望も運んでいきます。

 

著者プロフィール ◇藤富 郷/ふじとみ・ごう

気象予報士、税理士。埼玉県三郷市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。大学院在学中に気象予報士に登録。日本テレビ「スッキリ」に気象キャスターとして出演しながら税理士試験に合格し、2016年に開業。21年に越谷税務署長表彰受賞。趣味の鉄道では、鉄道イベント出演や時刻表、鉄道模型雑誌にコラムを寄稿。プログラミングやダムにも造詣が深く、“複業”として得意を組み合わせて幅広く活躍中。地元の「三郷市PR大使」を務めるなど、地域との関わりも深めている。