お知らせ

2024年10月4日

津山商工会議所 所報11月号『今月の経営コラム』

潮流を読む

「『貯蓄から投資へ』の”定着”のために」

 

 日本銀行が2024年9月19日に公表した「2024年第2四半期の資金循環(速報)」によれば、同年6月末の家計の金融資産の残高は前年比4.6%増の2212兆円と、過去最高を更新した。19年12月末に1887兆円で過去最高となり、21年12月末には2000兆円を超え2042兆円となった後、総じて増加傾向にある。同資金循環統計では家計の金融資産残高は現金・預金、債務証券、株式等・投資信託受益証券、保険・年金・定型保証、対外証券投資で構成されている。この中で現金・預金は安定して増え続け、常に5割以上を維持しており、24年6月末でも1127兆円と金融資産全体の51.0%を占めている。

 「貯蓄から投資へ」の流れを見る上で重要な指標である株式等・投資信託受益証券の残高は、23年半ばぐらいから増加基調となり、最近の株式相場の乱高下にもかかわらず、増加率は高い水準を維持している。23年6月末から24年6月末の5四半期平均の前年比増加率は、株式等が24.3%、投資信託受益証券が23.1%となった。しかし、この両者が金融資産全体に占める割合はおのおの13.6%、5.8%であり、米国の株式等40.5%、投資信託12.8%(24年3月末の連邦準備制度理事会(FRB)の公表数値)と比べると、見劣りする。ちなみに米国の現金・預金の同比率は11.7%であった。
 

 日本では、「貯蓄から投資へ」の流れをつくることの重要性が頻繁に挙げられている。大和総研「日本経済中期予測」(24年)によれば、確かに1988年、89年には金融資産に占める株・出資金の割合がおのおの20.4%、20.7%と20%を超えたことがあるが、それ以降はボトムが2002年の5.4%、ピークは05年の12.7%であった。もっとも、この比率が将来20%を超えても、それが一時的では意味がない。20%以上の高い水準で安定させることが重要であろう。
 

 この意味で、米国では「貯蓄から投資へ」の”流れ”よりもその”定着”に焦点が当てられている。そのために米国では、金融当局が個人投資家保護規制を徹底的に強化している。金融機関は、これらの規制対応のコスト負担を含めてビジネスが成り立つ事業モデルの改善をしていく努力を怠っていない。例えば、米国の資産運用会社は、経済状況、金利の水準など金融資産の資産運用環境を踏まえながら、顧客である各家計にとっての適切な資産配分(アセットアロケーション)を重視している。さらに、証券会社、銀行などの販売会社は、家計の資産形成の目的に合った顧客のバランスシート(貸借対照表。金融資産のほかに不動産等を含む全ての資産と負債および純資産の状態)を考慮しながら、顧客の資産を管理するためのサービス(=ウェルスマネジメント・サービス)を提供している。
 

 日本の金融当局は米国と同様、個人投資家保護規制強化を進めている。さらに日本政府は、ここ数年、個人投資家保護、資産所得倍増プラン、資産運用立国を政策として掲げている。これらを受けて金融機関は、日本のウェルスマネジメント市場への参入を本格化し、ウェルスマネジメント・サービスの土台となる顧客本位の営業体制の構築を目指す取り組みを進めている。しかし、依然として、家計に対して自社にとって収益性の高い運用商品を提供したり、住宅ローンを中心とする消費者ローンを提供したりすることに注力するビジネスモデルが見られる。米国と比較すれば、プロダクトアウト(販売する自社の商品優先)の戦略から抜け切れていないように見える。
 

 現在、日本はデフレ局面を脱し、今後も名目GDPの成長が継続すると見込まれている。このため株式市場の上昇が継続する可能性が高まっており、「貯蓄から投資へ」を定着させるチャンスを迎えている。日本の金融機関が、米国の金融機関のように、家計のバランスシートの状況分析に基づく資産配分サービスの丁寧な提供をしていくという、顧客本位のビジネスモデルへの転換がさらに進めば、日本のウェルスマネジメント市場の将来性は明るいと考えられる。当然ながら個人投資家への金融教育の普及も必要となる。これらの取り組みが本格的に進展し、個人投資家が安心して資産形成ができる土台を構築し、早めに貯蓄から投資への定着が実現できる状況になることを期待したい。

                     (9月20日執筆)

          

著者プロフィール ◇内野 逸勢/うちの・はやなり

 

静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。

 


 

中小企業のためのDX事例

「地域と共に歩む芝園開発:デジタルが変える放置自転車対策」

 

  芝園開発株式会社は、駐輪場や駐車場の管理業務を中心に、都市の放置自転車対策など、さまざまなサービスを提供している企業です。1998年には、日本初の無人機械式個別管理時間貸し駐輪場システムを導入し、業界に大きな影響を与えました。しかし、2006年に主力の駐車場事業がガソリン価格の高騰や過当競争などにより厳しくなり、その状況を打開するため、新たな価値創造やビジネスモデル構築を目的に、デジタル技術を活用した事業転換を積極的に推進しました。
 

 その取り組みの一つが、15年に開発された放置自転車対策システム「Capture」です。自治体が管理する放置自転車の発見から返還・処分までのプロセスを一元管理するこのシステムは、現場スタッフがタブレットやスマートフォンを使って操作しやすいように設計されています。特に、現場スタッフの多くが高齢者であることから、操作の簡便化を重視し、音声入力やカメラガイド機能を搭載しています。これにより、IT機器に不慣れなスタッフでもスムーズに利用できるようになりました。さらに、放置自転車の位置情報や作業の進捗(しんちょく)状況をリアルタイムで共有することで作業効率が飛躍的に向上し、大きな成果を上げています。例えば、東京都港区ではこのシステムの導入により放置自転車の台数が51.4%減少しました。さらに、システムのリリース後も、現場からのフィードバックを基に改良が続けられており、重たいタブレットからスマートフォンに切り替えるなど、より使いやすいシステムへと進化しています。
 

 また、「LIXTA」というブランドを通じて、より広範な社会課題を解決する取り組みを行っています。駐輪場や駐車場の管理システムだけでなく、広範な施設管理業務をサポートするデジタルソリューションを提供してきました。データに基づいた運用を実現し、施設の利用状況をリアルタイムで把握することで、効率的かつ効果的な管理が可能となり、管理コストの削減とサービスの質の向上に貢献しています。また、施設の特性に応じたカスタマイズが可能であり、柔軟な対応力がLIXTAの大きな特徴です。

 同社は、デジタル技術を活用して業務運営の効率化とサービス品質の向上を同時に実現していますが、その取り組みにとどまらず、地域社会や自治体との連携を強化し、新たな価値を創造しています。これらの取り組みにより、社会課題の解決に貢献し、さらに成長を続けることが期待されています。

(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)

 

著者プロフィール ◇大川 真史/おおかわ・まさし

 ウイングアーク1stデータのじかん主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。専門はデジタル化による産業構造転換、中小企業のデジタル化。オウンドメディア『データのじかん』での調査研究・情報発信が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、エッジプラットフォームコンソーシアム理事、特許庁Ⅰ-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。i.lab、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。

 


 

職場のかんたんメンタルヘルス

「ハラスメントになりやすいNGワード」

 

 ハラスメントにならないようにと言動には気を付けているという人も、無意識のうちに行為者になっていることがあります。思わず使ってしまいがちなNGワードを、今回はご紹介します。

 

■NGワード1:「とりあえず見ていればいいから」「やりながら覚えて」

 部下に対して、思いやりのつもりで使っていませんか。また、「仕事は見て、真似(まね)て身に付けていくもの」といった信条を持っている人は、部下とのすれ違いを生みやすい傾向にあります。実際「今は見ていればいいから」と、あえて部下に指示を出さずにいた上司が、新入社員から「何も教えてもらえず、やることもなく精神的な居場所もなくて、とても苦痛だった」と指導怠慢で訴えられたケースがあります。新人指導を行う場合は、スモールステップで具体的に少しずつ業務のノウハウを教えていくことが大事です。

 

■NGワード2:「何でも相談して」「そのくらい自分で考えて」

 部下の信頼を一気に下げてしまう「ダブルバインド(二重拘束)」に気を付けましょう。ダブルバインドとは、二つの矛盾したメッセージを同時に伝えてしまうことです。相手は混乱して心理的なストレスを感じます。例えば部下に、「何でも相談して」と言っておきながら、実際に相談されると「今は忙しいから後にして」と軽くあしらったり、「それくらいのことは自分で考えて」と突き放したりする。これらは、相手を振り回すことでマインドコントロールを行う「モラルハラスメント(モラハラ)」に抵触する行為にもなり得ます。指導的立場にある人は、自分がダブルバインドで部下と関わっていないかを意識してください。

 

■NGワード3:「なぜこうなったの?」

 使うタイミングによって「なぜ?」は、「デンジャラス・クエスチョン」といわれる”相手を追い詰める言葉”になります。例えば、不測の事態が起こったときの「なぜ?」がそうです。計画通りにいかないトラブルが”不測の事態”です。従って、「なぜ?」と問われても即座に答えようがありません。それにもかかわらず、つい口を突いて出てしまう”上司のなぜ”。これは部下を不快な思いにさせるばかりでなく、反発心を刺激します。「なぜ?」の多い上司は「問題解決思考」といえますが、「追及」「脅迫」「叱責(しっせき)」と解釈される危険性もあります。もちろん原因究明が必要なこともありますが、そこで部下を追い詰めないようにしましょう。

 

 

著者プロフィール ◇大野 萌子/おおの・もえこ

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、公認心理師、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで5万人以上を対象に講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書にシリーズ51万部超『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)ほか多数。

 


 

トレンド通信

「新たな目的地と居場所をつくったFビレッジ」

 

 いまや北海道の新名所となっている北海道ボールパークFビレッジを訪ねてきました。プロ野球の北海道日本ハムファイターズが本拠地とする野球場エスコンフィールドを核に、さまざまな商業施設や宿泊施設、居住施設などが複合しています。2023年3月に開業し、今年の6月には来場者が500万人を超えました。新たな観光名所であり、地元民が休日を過ごす居場所であり、そこに住むこともできます。また、さまざまな企業がこの開発プロジェクトに関与することで、ビジネスや出会いを生み出す場所としても期待されています。

 訪ねた日は、オリックス・バファローズとのデーゲームが開催されていました。球場に足を運んでいた人たちは年齢も性別も服装も多種多様で、例えば広島のマツダスタジアムの観客のように、みんなが応援するチームのユニホームを着ているといったことはなく、試合観戦、あるいは応援がメインというより、普通に休日を楽しみに来たその一部として野球観戦という人もたくさんいるように感じました。
 

 Fビレッジの開発を手掛けたキーパーソン、北海道日本ハムファイターズの前沢賢さんは、「訪れるお客さんは、運営側が想像もしないような楽しみ方をこの場所で見つけている」と話していました。例えば、試合前にグラウンド整備のために芝に水をまくシーンをずっと眺めている人がいて、理由を尋ねると「非日常空間で緑と水が描く光景に癒やされるから」だそうです。平日の昼間、試合がない日でも球場に入れるよう一部を開放しているのもユニークです。アクティブなシニア層を意識して、プロ野球では異例の平日の昼間に試合を開催したこともあります。バックスクリーンにはビール会社とコラボしたレストランがあり、そこで醸造したビールを野球観戦しながら楽しめます。

 球場以外でもFビレッジでは、さまざまなお客さんに向けた楽しみ方が提案されています。ファミリー向けに子どもが遊ぶスペースはもちろん、犬の散歩がてら来られるようにドッグランのコースもあります。球場にも、ペットとともに観戦できるスペースが設けられています。
 

 とにかく、これまで野球チームや野球観戦にあまり興味がなく、接点を持たなかった人にも足を運んでもらうアイデアや工夫が随所に散りばめられています。一つひとつの仕掛けを見ていると、年齢やライフスタイルの違いでいくつもターゲットを設定し、それぞれに対して魅力的な企画やサービスを提供しているように見えます。顧客を広げるために、なんとなくぼんやりと広いターゲットを設定するのではなく、絞った満足度の高いものを個々のターゲットに合わせていくつも用意するというイメージです。
 

 ターゲットが違っていても共通しているのは、単にある目的だけのために来てそれが済めば帰るのではなく、ほかの施設やサービスを体験してできるだけ長い時間Fビレッジに滞在してもらおうという考え方です。顧客を広げるために、たくさんのフックを用意してそれをいくつも体験できる場所をつくったことが、成功の秘訣(ひけつ)の一つだと思います。

 

 

著者プロフィール ◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ

日経BP 総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。

 


 

気象予報士×税理士 藤富郷のクラウドな話

「秋の短さに拍車をかけた猛暑」

 

 今年も秋らしさを感じられる時期が短くなりそうです。夏の猛暑が記録的な長さになったためです。特に猛烈な暑さで有名になったのは、福岡県の太宰府市です。35度以上の猛暑日を62日も観測し、そのうち40日が連続記録となりました。これまでの日本記録は、2023年の群馬県桐生市で、猛暑日の合計は46日。連続記録は20年の岡山県高梁市の24日でしたので、大幅に記録を更新し、太宰府は一気に灼熱(しゃくねつ)のまちになりました。その様子が連日報道され、観光客のインタビューを見ると暑さ対策が大変だったようです。
 

 そして、暑かったのは太宰府だけではありません。全国的に異常な暑さで、記録超えの地点がほかにも33地点ありました。40度以上を記録したのは9地点で、18年に続き統計開始から2番目に多い地点数です。栃木県の佐野市では41.0度まで上がり、歴代2番目の暑さとなりました。
 

 気象庁では、6~8月を夏、9~11月を秋としています。しかし、今年は9月に入っても30度以上の「真夏日」の所が多く、なかなか秋らしさが感じられませんでした。20日には静岡市で39.2度と9月中旬以降の国内最高記録が出たのです。そうなると、体感的には6~9月が夏。12月は暖冬だとしても気温は下がってくるので、秋を感じられるのは10~11月だけになります。
 

 今年は、猛烈な雷雨など「熱帯のスコール」を思わせる雨の降り方も多くなりました。気温が高ければ高いほど、空気中に含まれる水蒸気量が多くなり、大雨の原因になります。石川県能登地方では9月下旬になっても線状降水帯が発生し、大雨特別警報が発表され、災害級の大雨になりました。これも、記録的な猛暑によって非常に湿った空気が多量に流れ込んだからです。
 

 これらの理由から、温帯から熱帯気候に変わったのではないかと心配する声がありますが、ドイツの気象学者であるケッペンの気候区分で見ると、熱帯の定義は「最も寒い月の平均気温が18度以上」であり、暑さを基準としていません。18度というのは東京の10月の平均気温くらいです。遅くても秋や冬がやってくる日本は、やはり温帯なのです。今後、猛烈な暑さの夏が当たり前になる予測はありますが、秋は短くてもやってきます。日本の秋は実りも多く、読書やスポーツにも最適ですね。10月下旬になると山から紅葉も始まり、日本の四季の美しさも感じられます。ようやく秋らしくなってきましたので、あっという間の秋を逃すことなく、旅行やレジャーなど十分に堪能したいものです。

 

 

著者プロフィール ◇藤富 郷/ふじとみ・ごう

気象予報士、税理士。埼玉県三郷市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。大学院在学中に気象予報士に登録。日本テレビ「スッキリ」に気象キャスターとして出演しながら税理士試験に合格し、2016年に開業。21年に越谷税務署長表彰受賞。趣味の鉄道では、鉄道イベント出演や時刻表、鉄道模型雑誌にコラムを寄稿。プログラミングやダムにも造詣が深く、“複業”として得意を組み合わせて幅広く活躍中。地元の「三郷市PR大使」を務めるなど、地域との関わりも深めている。