お知らせ

2024年11月15日

津山商工会議所 所報12月号『今月の経営コラム』

潮流を読む

「地方創生を左右する地域コミュニティの強化」

 

 10月1日に誕生した石破政権は、これまでの政権以上に地方創生、地域経済活性化を政策の柱としている。「地方創生2.0」と銘打ち、「新しい地方経済・生活環境創生本部」を創設し、担当大臣の下で今後10年間の集中的な総合対策を講じる考えだ。振り返れば、これまでの政権においても、同分野の政策は重要視されてきた。しかし、とりわけ、東京一極集中の是正と地方自治体の持続可能性の維持・向上という課題に対して、期待するような成果が上がってきたとは思えない部分が多々ある。しかし、ここは批判するよりも、国民一人一人が自分自身の身近な問題と捉えて、地方創生、地域経済活性化にどのような政策が必要であるか改めて考える良い機会としてはどうだろうか。

 

 この点において、筆者は非常に”良い機会”を与えられている。それは、現在、静岡県袋井市の「第3次袋井市総合計画」(計画期間は2026年度~35年度の10年間)策定のための審議会委員[注1]を務めているからである。15年度に策定され25年度に期間満了を迎える現第2次計画は「活力と創造で 未来を先取る 日本一健康文化都市」をまちの将来像に掲げて進められている。
 

 同市によれば、総合計画とは「市と市民が目指すべきまちの将来像を共有し、その実現に向けて計画的に行政運営を行っていくための基本的な考え方や目標を定めた市の最上位の計画」としている。加えて同市は、新たな総合計画の策定のために、21の政策分野を掲げている。具体的には、「農業環境」「都市計画景観」「子育て支援」「教育」「健康長寿」「地域医療」「地域福祉」「スポーツ」「金融経済」「女性活躍」「地域産業・ローカルメディア」「農業」「観光」「危機管理・広域行政」「土木防災」「地域防災」「地域コミュニティ」「国際交流・多文化共生」「デジタル」「移住」「若者・Uターン・文化芸術」である。これらの分野の専門家が審議会委員(筆者の担当は金融経済)として1年程度かけて政策議論を重ねていく。6月からすでに4回の審議会が開催された。その中では、各委員が現総合計画の強み、弱み、機会、脅威を具体的に指摘しながら(いわゆるSWOT分析)、新たな総合計画の策定に向けて活発な議論がなされている。

 

 これら政策議論において、筆者が最も重要と認識している政策分野は地域コミュニティである。地域コミュニティの専門家は、同市の自治会連合会の会長。つまり、最も身近に地域の課題に直面している自治会という地方自治の最小単位の”首長”である。地方自治体の持続可能性の維持・向上を図る上で、自治会の運営の強化は非常に重要といえよう。つまり、総合計画の定義の中にあるように「市と市民が目指すべきまちの将来像を共有」することにつながる”1丁目1番地”に位置する政策課題と認識している。
 

 これまでの政権の地方創生、地域経済活性化の政策における全体像や大きな範囲を対象として考えるマクロな視点も重要ではあるが、それらをより個別具体的にミクロな視点での解決策につなげる必要があろう。市民一人一人が、マクロ、ミクロの両方の視点からバランスよく政策課題を意識して、積極的に政策課題を共有し、解決に向けた行動を取る環境づくりをすることが重要である。地域コミュニティの軸である自治会の持続可能性を向上させ、地方自治体の基盤を強化できるかが、石破政権の掲げる地方創生の成否を左右するのではないか。

(10月18日執筆)

[注1]「袋井市総合計画審議会」は、袋井市総合計画審議会条例(2005年6月30日条例第172号)に基づき、市長の諮問に応じ、本市の総合計画に関する事項を調査審議するために設置される。第3次袋井市総合計画の策定に向けて、24年6月13日に、各分野の有識者21人を委員とする「袋井市総合計画審議会」を設置した。出所は袋井市ホームページ(24年10月16日時点)「第3次袋井市総合計画の策定状況について」https://www.city.fukuroi.shizuoka.jp/soshiki/4/2/sougoukeikaku/12578.html

          

著者プロフィール ◇内野 逸勢/うちの・はやなり

 

静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。

 


 

中小企業のためのDX事例

「働くママと子育て中のママを支えるデジタルツールの活用術」

 

  ポンテ・パシフィック株式会社は、抱っこひも「Pikimamaスリング」の開発と販売を通じて、育児を楽しむママたちを支援する企業です。代表取締役のグエルシオ花アリシア氏が第一子の誕生後、自身の経験を基に抱っこひもを開発したことがきっかけとなり、2019年に創業しました。育児と仕事の両立が求められる時代に、同社は独自の働き方や顧客との深い関係性を築くことで成長しています。

 同社のデジタル化は、働くママ(スタッフ)たちが日常的に使用しているツールを活用し、柔軟なシフト調整やタスク管理を行っている点が特徴的です。シフト調整には、家族や友人間でのスケジュール共有に広く使われているTimeTreeを採用しています。スタッフは自分の予定を確認しながら、業務が立て込んでいる時期にはシフトを増やし、育児が忙しいときにはシフトを減らすといった柔軟な働き方が可能になっています。
 

 業務の引き継ぎや社内コミュニケーションには、LINEのグループチャットを活用しています。日ごとの進捗(しんちょく)状況や翌日の作業内容など社内の情報共有がスムーズに行われ、迅速な対応が可能となっています。
 

 生産管理ツールとしては、タスク管理で幅広く使われているTrelloを活用し、製造工程ごとの進捗や付帯作業の進捗を可視化しています。これにより、スタッフ全員で生産状況や優先作業を共有しています。このようなデジタルツールの活用により、働くママたちが育児と仕事の両方を柔軟に調整し、無理なく両立できる環境を整えています。
 

 またスタッフだけでなく、ユーザーとのコミュニケーションもデジタルを使いながら、長年の友人のように対等で温かみがあることを大切にし、自然体での対話を心掛けています。例えば、Zoomでのやりとりの際も、最後に親しみを込めて「バイバイ」と言って終了したり、コロナ禍ではインスタライブを通じて孤立しがちなママたちと交流したり、沖縄在住のファンがスタッフとなってユーザーサポートやコミュニティ活性化などを担っています。このようにユーザーと親しみやすい関係を構築することが、事業成長を後押しする重要な要素です。

(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)

 

著者プロフィール ◇大川 真史/おおかわ・まさし

 ウイングアーク1stデータのじかん主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。専門はデジタル化による産業構造転換、中小企業のデジタル化。オウンドメディア『データのじかん』での調査研究・情報発信が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、エッジプラットフォームコンソーシアム理事、特許庁Ⅰ-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。i.lab、リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。

 


 

職場のかんたんメンタルヘルス

「電話の良さを見直そう」

 

 いつの頃からか、「電話はオワコン(終わったコンテンツ)」といわれるようになりました。マルチタスクに追われ、人手も少なく余裕がない状況で、お互いが時間を合わせなければ用をなさないツールを排除する方向に向かうのはある意味自然です。いつでも気兼ねなく送れて、相手も自分のタイミングで開封できるメールが台頭しているのですから、なおさらです。
 

 「相手の時間を奪う」と揶揄(やゆ)される電話ですが、果たしてそうでしょうか。実は、メールのやりとりにこそ膨大な時間がかかっていることを見逃してはなりません。一日の業務の半分は、メールの返信に明け暮れているという話もよく聞きます。また、電話は文字だけでは伝えきれないニュアンスを共有するためには必要なツールです。特に、相手との行き違いがあったときには、何度も文字でやりとりするよりも、電話をかけて確認することであっさりと誤解が解けることがあります。
 

 さらに、文字ツールと比べて伝え合う情報量が圧倒的に多いというメリットもあります。一般的にスピーチ原稿は、1分間に約300文字を目安に作成するといわれています。それを基に考えると、数分間のやりとりで数千字の情報を伝え合えることになります。通常はそのような長いメッセージを送ることはありません。これだけ考えても情報量の差を感じていただけるのではないでしょうか。
 

 電話番号を大々的に不特定多数に開示するのは、理不尽なクレームや勧誘などに使われることにつながるなど、リスクが高くなります。しかし、交流がある人や取引先との電話の利用はむしろ、大量の情報を伝え合うことができるため、メリットの方が大きいと思います。基本的に、就業時間内(フリーランスであれば、あらかじめやりとりできる時間帯を共有しておくと良い)であれば、いつ電話をかけてもマナー違反になることはありませんし、手が離せないときは相手が出ないはずですので、そこまで気を使う必要はありません。ただ、電話は緊急時に使用するツールといった認識も強いことから、留守電になったら、一言用件を残しておく配慮ができると良いですね。
 

 若い世代を中心に、電話を敬遠する傾向にあると思いますが、コミュニケーションツールの一つとしてのスキルは、社内教育をしてでも残しておくことが大切です。

 

著者プロフィール ◇大野 萌子/おおの・もえこ

法政大学卒。一般社団法人日本メンタルアップ支援機構(メンタルアップマネージャ資格認定機関)代表理事、公認心理師、産業カウンセラー、2級キャリアコンサルティング技能士。企業内健康管理室カウンセラーとしての長年の現場経験を生かした、人間関係改善に必須のコミュニケーション、ストレスマネジメントなどの分野を得意とする。防衛省、文部科学省などの官公庁をはじめ、大手企業、大学、医療機関などで5万人以上を対象に講演・研修を行い、机上の空論ではない「生きたメンタルヘルス対策」を提供している。著書にシリーズ51万部超『よけいなひと言を好かれるセリフに変える言いかえ図鑑』(サンマーク出版)ほか多数。

 


 

トレンド通信

「プレッシャーを背負って頑張る名店の二代目を応援」

 

 山形新幹線の終点・新庄駅から歩いて3分ほどの所に、「味おんち」というちょっとひねった名前の飲食店があります。「高橋日東商店」という酒屋の一角に、いわゆる角打ちとして「味おんち」はあります。7~8年前に初めて訪ねて以来、新庄やその近辺に行く機会があれば必ず寄るようにしています。80年ほどの歴史ある酒屋が扱う古今東西の銘酒が、東京では考えられないような価格で提供されます。また、お酒に合わせた和洋中の料理も秀逸です。
 

 一昨年の初めに先代が亡くなり、現在は息子さん夫婦と先代の奥さまが店を切り盛りされています。私が引かれたのは、お酒や食に関する圧倒的な情報量だけでなく、どこまでも謙虚で穏やかな先代と奥さまの山形言葉を聞くことで、それが楽しみでした。私のようなファンは多く、地元よりも近隣の県や首都圏から多くの客がこの店を目的に新庄を訪れているそうです。
 

 行くたびに新しい知識に出合え、新しい体験ができる場所は、いま寡黙な二代目が引き継いでいます。過去数十年にわたって仕入れた逸品も、お客さんに提供しているうちにいずれ無くなってしまうでしょう。二代目はこの先何年、何十年後にも自信を持ってお客さんに出せる品を仕入れるため日々奮闘しているのだと思います。
 

 こうしたタイムカプセルのようなビジネスは、資金繰りや在庫管理の面でとても運用が難しいと思われます。ぜひとも長く続けてほしいと応援したくなります。
 

 このまちへ行くと必ず訪れる、という店はほかにもいろいろとありますが、たまたま新庄へ行く10日ほど前に訪れた静岡県三島市の「若鳥」という店も2019年に代替わりして、二代目が引き継いでいます。こちらは創業60年以上になる鳥から揚げの専門店です。祖母が始めた店を孫が引き継いだ形です。この店のから揚げは、一羽を四つに分けたサイズで提供されます。モモ、手羽で半身、2個ずつで一羽分の大きさです。ほぼ素揚げで塩だけの味付けなのに、なぜかたくさん食べられてしまいます。
 

 先代のとき全国コンテストで賞を取っていましたが、代替わりしてからも昨年、「第14回からあげグランプリ」の「素揚げ・半身揚げ部門」で最高金賞を受賞しています。全国的に評価されているのれんを引き継ぐプレッシャーは大きいと思われますが、こちらもぜひ長く続いてほしいと思います。私自身は30年ほど前に初めて行って以来、近くで仕事があるときは、できるだけ宿泊を三島に変更してでも訪ねるようにしていました。
 

 今回は、個人的な話ばかりで恐縮ですが、旅の最大の楽しみはこうした「無理をしてでも行きたい場所」や「会いたい人」を訪ねることと、また次にそう思えるようになる新たな出会いにあるのだと思います。先日東京ビッグサイトで開かれた「ツーリズムEXPOジャパン」の会場で、さまざまな地域ごとの魅力発信や、グルメ、スポーツ、アカデミア体験などの展示を見ながら、行動変化を促すような本当の魅力は、もっと個別でピンポイントなところにあるのではないかと感じていました。

 

 

著者プロフィール ◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ

日経BP 総合研究所 上席研究員。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌編集部を経て現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。

 


 

気象予報士×税理士 藤富郷のクラウドな話

「会社の防災への取り組み ~BCPとタイムラインの融合~」

 

 最近の気象災害の激甚化により、防災意識が高まりつつあります。人命第一ということで、特に自宅の防災は以前より対策が取られているように感じます。しかし、会社の防災についてはどうでしょうか。災害により会社が機能しなくなると、被災後の生活に大きな支障が出るにもかかわらず、一部まだ意識の高くないところもあるようです。
 

 会社の防災計画については、ご存じの人もいらっしゃると思いますが「BCP(事業継続計画)」というものがあります。災害などの緊急事態が発生したとき、企業が損害を最小限に抑え、事業の継続や復旧を図るための計画です。主に大企業で取り組まれていますが、中小企業には前者ほど浸透していません。BCPは経営の視点からつくられていますので、災害発生後の対応が中心となっています。ですから、災害発生前の対応については不明確で、事業計画における防災対策というには弱い部分があります。
 

 一方で、国の防災計画には「タイムライン(防災行動計画)」というものが広まっています。災害発生を前提とし、その前後の重要な行動や情報を時系列で整理したものです。災害に対する準備から始まり、国、市町村、住民が連携した災害発生直後の対応、復旧や復興までの過程が含まれます。さらに最近は「マイ・タイムライン」という、住民一人一人の取り組みも始まりました。ただし、これについては自宅における防災計画ですので、会社の防災という面では不十分です。
 

 そこで、私はBCPでの事業分析とタイムラインでの防災行動のそれぞれの良さを融合させ、会社向けの防災計画ができないかと考えるようになりました。現在は、それを「会社防災タイムライン」と名付けて、自分の強みである「税理士×気象キャスター」を生かすべく、経営と防災の両方に通じる専門家として「会社の防災」をライフワークに講演活動なども行っています。先日、地元の経営者向けに「会社の防災」をテーマに講演を行いましたが、中小企業の皆さまにも新しい気付きを得ていただけました。
 

 「会社防災タイムライン」は災害時の経営面での事業継続計画に、災害発生前の予測を加味することで被害を軽減できます。また、事前準備を重視しておりますので、早期の復旧にもつながります。被災した地域では、企業の復旧が励みになります。日常が戻った証しにもなり、地域の雇用を守ることもできます。会社は事業の継続が使命でもありますので、この考え方が全国に広まって多くの会社の役に立つとうれしいです。

 

 

著者プロフィール ◇藤富 郷/ふじとみ・ごう

気象予報士、税理士。埼玉県三郷市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。大学院在学中に気象予報士に登録。日本テレビ「スッキリ」に気象キャスターとして出演しながら税理士試験に合格し、2016年に開業。21年に越谷税務署長表彰受賞。趣味の鉄道では、鉄道イベント出演や時刻表、鉄道模型雑誌にコラムを寄稿。プログラミングやダムにも造詣が深く、“複業”として得意を組み合わせて幅広く活躍中。地元の「三郷市PR大使」を務めるなど、地域との関わりも深めている。