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津山商工会議所 所報12月号『今月の経営コラム』
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「どうすれば地方自治体のガバナンスを強化できるか」
最近、地方自治体の首長の問題がメディアをにぎわすことが多い。その背景には、首長だけの問題ではなく、首長、住民、住民の代表である地方議会・議員、役所などの執行機関を含めた地方自治体におけるガバナンスの問題があろう。類似の言葉であるガバメントは国の統治、地方の自治そのものを意味するのに対し、ガバナンスとは、国の統治、地方自治を担う関係者がその相互作用や意思決定により、社会規範や制度を形成し、強化して、再構成していくことを意味する。
分かりやすい例としては、企業の不祥事などの予防、対策で問題となる言葉として使用される企業ガバナンスであろう。企業ガバナンスは、健全な企業経営を行うための組織管理体制、内部統制を指す。特に、組織内部において相互をけん制する意味を持つ内部統制は、企業の業務の有効性と効率性、法令順守、資産の保全を確保するための仕組みである。企業の社長は、取締役会が決定した基本方針に基づいて内部統制を実施する必要があり、加えてそれを整備・運用する最終責任者である。このため、社長自身に不祥事などの問題があれば、内部統制、ガバナンスは機能せず、健全な経営は成り立たない。この意味において、地方の首長のガバナンス上の責任は非常に重く、地方自治体の健全な運営に及ぼす影響は計り知れない。
ここで、総務省による地方公共団体のガバナンスのあり方に関する資料[注1]と地方自治法に基づき、地方自治体におけるガバナンスを整理する。地方自治体のガバナンスとは、地域住民の参加と透明性を重視し、地方公共団体の適切な運営を実現するための重要な枠組みとされている。ガバナンスの基本構造としては、住民、地方議会、執行機関(首長など)、監査機関といった、さまざまな主体が相互に関与し、チェックし合う仕組みとなっている。地方議会は住民を代表する機関であり、執行機関の行動を監視し、政策決定において重要な役割を果たしている。冒頭で述べたように、地方自治体におけるガバナンスとは、地方自治を担う関係者がその相互作用や意思決定により、社会規範や制度を形成し、強化して、再構成していく仕組みである。
ただし、企業ガバナンスは株主などのステークホルダーのためのガバナンスであるが、地方自治体のそれは異なる。住民自治が地方自治の根幹を成すことから、ここではステークホルダーである地域住民のためのガバナンスとなる。前述の総務省の資料(注1参照)では、「適切な役割分担によるガバナンス」が強調されており、首長、監査委員、議会、住民の役割が明確にされることが求められている。これにより、住民の意見が政策に反映されやすくなり、より良いガバナンスが実現されることが期待されている。
これらを踏まえれば、適切な地方公共団体のガバナンスを構築するために、政策に反映される「住民の意見」には、少なくとも社会規範上の高い”民度”が求められ、それが適切なガバナンスを担う首長、議会議員の選出につながると考えられよう。
最後に、本稿のテーマである「どうすれば地方自治体のガバナンスを強化できるか」に対する答えは、当然ながら全ての住民が社会規範と責任を持って主体的に地域の運営、ガバナンスに関与することであり、それ以外の答えはないのではないか。
(10月20日執筆)
[注1]総務省「地方公共団体のガバナンスのあり方に関する参考資料」2014年8月29日第31次地方制度調査会第6回専門小委員会 参考資料2
著者プロフィール ◇内野 逸勢/うちの・はやなり

静岡県出身。1990年慶応義塾大学法学部卒業。大和総研入社。企業調査部、経営コンサルティング部、大蔵省財政金融研究所(1998~2000年)出向などを経て現職(金融調査部 主席研究員)。専門は金融・資本市場、金融機関経営、地域経済、グローバルガバナンスなど。主な著書・論文に『地銀の次世代ビジネスモデル』2020年5月、共著(主著)、『FinTechと金融の未来~10年後に価値のある金融ビジネスとは何か?~』2018年4月、共著(主著)、『JAL再生 高収益企業への転換』日本経済新聞出版、2013年1月、共著。「第3次袋井市総合計画」審議会委員。IAASB CAG(国際監査・保証基準審議会 諮問・助言グループ)委員(2005~2014年)。日本証券経済研究所「証券業界とフィンテックに関する研究会」(2017年)。
中小企業のためのDX事例
「標準化と相見積もり回避で業績につながるDX」
今回は、工程管理を自動化して多品種少量生産を実現した金属板金加工業の事例です。北海道北広島市にある株式会社ワールド山内は、板金から溶接、組み立てまでを一貫対応する、地域でも有力なものづくり企業です。工業団地を拠点に短納期と高品質を両立させてきましたが、案件の多様化と人手不足が進む中で、従来の紙や経験に依存した管理には限界が見え始めていました。納期回答の迅速化、機械稼働の見える化、夜間の自動運転をいかに安全に運用するかが喫緊の課題でした。
同社が踏み出したのは、現場起点のDXです。受注から出荷までの各工程と設備稼働をデジタルで接続し、リアルタイムで状況を把握できる独自の工程管理基盤を整備しました。作業実績は現場入力に統一し、滞留やボトルネックはダッシュボードで即時に可視化します。結果として、多品種少量でも負荷を適正化し、24時間の自動運転と迅速な納期回答を両立できるようになりました。背景には挑戦を尊ぶ企業文化があり、スマートファクトリー方針の下で部門横断の改善が加速しています。
特徴的なのは、新規案件の見積もり依頼への対応です。図面が未添付の場合でも、社内で速やかにCADデータを作成し、工程別の標準工数や歩留まりを反映した原価モデルで試算して、妥当な概算見積もりを迅速に提示します。さらに生産負荷の状況をリアルタイムに把握できるため、納期案まで含めた回答が可能です。回答の正確性と速さが評価され、相見積もりに展開する前に受注に至るケースが増えています。根拠ある見積もりが営業力の中核となっているのです。
もう一つの取り組みは、標準化で整備した社内マニュアルの外部活用です。東京など遠方の発注者を北海道に招き、数日かけて製造の基本や品質の考え方を体系的に学んでもらいます。発注者にとって同社は信頼できる指導役となり、その関係性が年次の単価改定交渉を有利に進め、設計段階でコストダウンを目指すVA(Value Analysis)・VE(Value Engineering)提案も採択されやすくなりました。「現場知」をマニュアル化し、教育と商談に転用することで、価格に偏らない競争力を着実に高めています。
重要なのは、現場で機能する最小単位の標準化と可視化を起点に、顧客との学び合いを仕組みに組み込むことです。大掛かりなシステムに頼るのではなく、まずは1枚の表から運用を磨き込み、営業と生産を同期させる。こうした地に足の着いた取り組みこそが、短期の受注確度のみならず、長期の関係性と収益基盤を確かなものにしていきます。
(この事例は筆者取材時のものであり、現在では異なる場合があります)
著者プロフィール ◇大川 真史/おおかわ・まさし

ウイングアーク1st データのじかん 主筆。IT企業を経て三菱総合研究所に12年間在籍し、2018年から現職。デジタル化による産業構造転換や中小企業のデジタル化に関する情報発信・事例調査が主な業務。社外活動として、東京商工会議所ものづくり人材育成専門家WG座長、特許庁I-OPEN専門家、ロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会中堅中小AG副主査、サービス創新研究所副所長など。リアクタージャパン、Garage Sumida研究所、Factory Art Museum TOYAMA、ハタケホットケなどを兼務。経団連、経済同友会、経産省、日本商工会議所、各地商工会議所・自治体での講演、新聞・雑誌の寄稿多数。近著『アイデアをカタチにする!M5Stack入門&実践ガイド』。
日本史のトビラ
「ウサギ・バブルはじける」
いま「転売ヤー」が問題になっている。しかし、人気のある品物を競って買い求め、値上がりするタイミングで売り払う人々はネット社会が成立する前から存在した。労力を使わずもうけたいというのは人間のさがなのだろう。
じつは明治初年、ウサギの転売が社会問題になっている。築地の居留地にいた外国人が国内に持ち込み、これを好事家が面白がって手に入れたのが始まりだった。「これは売れる」と踏んだのだろう、翌年から変わった毛色や耳の形をしているウサギを、外国人たちが国内に持ち込むと、金持ちが喜んで購入した。結果、外国産のウサギの値は高騰。すると人々がこぞって投機目的でウサギを飼育するようになった。
料亭では「兎会」と称する品評会兼販売会が開かれた。外に列をなす会場も珍しくなかった。変わった色や姿のウサギだと1匹二、三百円の値が付いた。最高記録は明治6(1873)年の、耳の毛が黄色い600円のウサギ。警察官の初任給がひと月4円の時代だ。
世間では、相撲番付に見立てた兎番付「東花兎全盛」が販売されたり、ウサギの名を冠した芝居が開かれたりするなど、世はウサギ・バブルに浮かれていった。
当然、悪い業者が現れてくる。薬品や絵の具で白いウサギをカラフルに染め、本物だと偽って高値で売る詐欺商法が出てきた。ウサギ熱に取りつかれ、娘を売ってウサギを買おうとする愚か者も現れた。
見過ごせないと思った東京府は、ウサギの売買市を禁止したが、バブルに浮かれた連中は言うことを聞かず、ウサギの売買はやまなかった。そこで明治6年12月、東京府はウサギ税を導入することにした。買った者の名前を控えておくよう業者に通達し、また、所有者は役所に届け出るよう促した。そして、飼い主にウサギ1匹につき月1円の税を納めさせたのだ。無断で飼育したことが分かれば、1匹につき2円の罰金を徴収するとした。当時の1円で米が30㎏ぐらい買えてしまう。それが毎月徴収されるのだ。
これを知って人々は仰天、飼っているウサギをタダで町行く人にあげたり、川へ捨てたり、肉として売ったりしてしまった。河原の土手はウサギだらけになったという。ウサギの値は暴落し、ウサギに熱狂した人の中にも、財産を失い没落する者が続出した。
ただ、人間は懲りないものである。明治7(1874)年の夏以降、再び変わりウサギを買うことが流行したのだ。業者が巧みに仕掛けたらしい。人々はこっそり高値で珍しいウサギを手に入れ、これを飼って楽しんだ。前回ほど高値にはならなかったが、それでも1匹数十円で取り引きされるケースもあった。が、これに気付いた警視庁が隠し飼いしている好事家を摘発して罰金を科していったため、ついに2度目のウサギ・バブルもはじけたのである。いつの時代も、楽してもうかるといううまい話は存在しないのだ。
著者プロフィール ◇河合 敦/かわい・あつし

東京都町田市生まれ。1989年青山学院大学卒業、2005年早稲田大学大学院修士課程修了、11年同大学院博士課程(教育学研究科社会科教育専攻(日本史))満期退学。27年間の高校教師を経て、現在、多摩大学客員教授、早稲田大学非常勤講師。講演会や執筆活動、テレビで日本史を解説するとともに、NHK時代劇の古文書考証、時代考証を行う。第17回郷土史研究賞優秀賞(新人物往来社)など受賞。著書に『蔦屋重三郎と吉原』(朝日新聞出版)、『禁断の江戸史』(扶桑社)ほか多数。
トレンド通信
「必ずやってくる『未来のトレンド』をイメージする方法」
8月5日に観測史上最高となる41.8度を群馬県伊勢崎市で記録するなど、今年の夏はこれまでで最も暑い夏でした。この数年、毎年のように暑さが増して最高気温だけでなく、猛暑日や真夏日の日数も過去最高を更新することが常態化しています。地球温暖化の原因については諸説ありますが、温室効果ガスの排出規制の効果が地球規模で期待されない現状においては、当面この傾向は続くと考えられます。
以前このコラムで、地方の中小企業の経営者は未来に起こることを予測して、その先にビジネス視点で網を張ることが大切だとお伝えしました。今回は、どのようにして未来を予測すればいいのか、その変化をビジネスの世界にどう落とし込めばいいのか、その方法について考えてみます。
温暖化も一つの例ですが、この先10年、20年を考えたときに、どの時点でどこまで行くかは正確に読めないけれど、確実に一定の方向に向かっているような事柄はいくつもあります。例えば、テクノロジーの進化はこの先も後戻りすることなく、進んでいくでしょう。それは、例えば情報処理速度や通信速度の向上という形で表れて、その結果、自動運転や自動翻訳などは確実に手の届くところに降りてくると予想されます。日本国内における高齢化や少子化もそうです。また、数値では捉えにくいですが、利便性を求める人間の性質や生活スタイルの変化から見て、例えば家事はますます手抜きできるようになるでしょうし、冠婚葬祭といった家族単位のイベントもますます簡略化されるでしょう。
こうしたトレンドを、自分のビジネスとどう関連付けるのか。消費トレンドの変化を具体的に予測していくために、私自身は次のような方法を取っています。まず、例えば「温暖化」や「自動運転の普及」といったトレンド軸について、それがどのような影響をもたらすかを五つの視点から見るようにしています。それは「衣食住」と「働く」「遊ぶ」です。そしてそこから生まれる疑問をAIに投げてみるのです。
例えば、「食」の視点で「温暖化」によってはどんな影響が出るかを考えてみます。すでに熱中症対策で水分や塩分摂取について気を付けるようになっています。この先、今の猛暑日(最高気温35度以上、東京では今年29日)と同じくらいの頻度で40度以上の日が出現するとしたら、食生活はどう変わるでしょうか。AIに聞いてみたら、面白い視点を提示してきました。「水分を多く取るため、胃腸の調子を崩す人が増え、梅干しや発酵食品など食欲を刺激したり胃腸の調子を整えたりするような食品がはやると考えられ、さらに冷たいものを避ける人が増えるため『ぬるい』調理法による食品が数多く登場するでしょう」とのことでした。実際その通りになるかどうかは分かりませんが、新しいビジネスが生まれる可能性を感じさせます。こんな方法でさまざまなトレンドを分析しつつ、AIを使って具体的なイメージを広げてみてはいかがでしょう。
著者プロフィール ◇渡辺 和博/わたなべ・かずひろ

合同会社ヒナニモ代表。1986年筑波大学大学院理工学研究科修士課程修了。同年日本経済新聞社入社。IT分野、経営分野、コンシューマ分野の専門誌の編集を担当。その後、日経BP 総合研究所 上席研究員を経て、2025年4月から現職。全国の自治体・商工会議所などで地域活性化や名産品開発のコンサルティング、講演を実施。消費者起点をテーマにヒット商品育成を支援している。著書に『地方発ヒットを生む 逆算発想のものづくり』(日経BP社)。
気象予報士×税理士 藤富郷のクラウドな話
「会社防災のすすめ」
今年も大雨特別警報が発表になるなど、被害の大きい自然災害が頻発しました。会社の災害対策はできていますでしょうか? 企業にとって、突然やって来る災害は経営に大きなダメージを与えます。主要な事業が被災すると売り上げがぐっと下がるため、企業の継続が困難になることもあります。
私は気象キャスター・防災士と税理士という、それぞれ関係のないような仕事をしていますが、お互いをつなげられたら面白いなと感じておりました。その中で見つけたのが、防災を企業経営に結び付けることです。
近年は災害への対策として、BCP(事業継続計画)が注目されています。すでに導入している企業もあるかと思います。ただ、BCPを策定するには、さまざまなリスクを想定するため、作業が煩雑でなかなか大変です。特に、中小企業にとっては負担が大きくなります。帝国データバンクの調査でも、BCPを策定している中小企業は17%ほどと、大体数の企業では取り組まれていないことが実情です。さらに、BCPは災害発生”後”に事業を短期間で復旧させる経営計画であり、災害発生”直前”での対応は苦手です。
そこで、私が新しく考案したのが、「会社防災タイムライン」というコンセプトです。これは、災害発生に備え、発生前は「自然災害の会社への影響を数値化」、直前は「気象情報を活用し被害を軽減」、被災後は「早期の復旧」という時系列の流れで会社の人と資産を守る取り組みです。想定される災害を自然災害に限定し、とりわけ予測が可能な気象災害に注目することで、作成作業の負担が少なくなり、リスク評価もしやすくなります。
特に重視したいのが、災害発生直前の対応です。災害が迫っている中で適切に対応することで、事前の対策が最大限の効果を発揮し、想定された復旧費用の減少や復旧期間の短縮につながります。
ここで役立つのが、気象情報です。気象キャスターをしていると、災害発生の予測精度が高くなっていることを実感します。住民の避難に向けての情報である気象情報を企業向けに読み替えることで、発表される情報のタイミングに合わせた対応が可能になります。タイムライン形式で取り組みを設定することで、災害発生直前でも今何をすべきかが分かりやすくなります。
災害において、一番大切なのは人の命です。ただ、災害で会社がなくなると、被災後の生活に大きな影響が出てきます。会社を災害から守ることも考えてみてはいかがでしょうか。
著者プロフィール ◇藤富 郷/ふじとみ・ごう

気象予報士、税理士。埼玉県三郷市生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。大学院在学中に気象予報士に登録。日本テレビの情報番組に気象キャスターとして出演しながら税理士試験に合格し、2016年に開業。21年に越谷税務署長表彰受賞。趣味の鉄道では、鉄道イベント出演や時刻表、鉄道模型雑誌にコラムを寄稿。プログラミングやダムにも造詣が深く、”複業”として得意を組み合わせて幅広く活躍中。地元の「三郷市PR大使」を務めるなど、地域との関わりも深めている。
