デジタル化解説コラム「デジタル活用による儲かる経営づくり(全4回)」(第1回)働き手が2,000万人減る準備はできているか?【DX推進室】
コロナ禍を契機として、中小企業においても事業継続・生産性向上等の観点から、バックオフィス業務のデジタル化の機運が高まっています。
また、令和3年度税制改正において、税務署の事前承認の廃止やスキャナ保存の定期検査要件の廃止(スキャン後すぐの原本破棄を認める)など、電子帳簿保存法の大幅な要件緩和が行われました。これにより小規模事業者であっても、安価なクラウド会計ソフトを活用して電子帳簿が利用できる環境が整いつつあります。
そこで日本商工会議所では、各地商工会議所の会員事業者等が電子帳簿保存法やクラウド会計ソフト等の活用によるバックオフィス業務のデジタル化について理解を深められるよう、専門家による全4回の解説記事を順次公開してまいります。
「デジタル活用による儲かる経営づくり」
(第1回)働き手が2,000万人減る準備はできているか?
「生産性向上」や「デジタルによる効率化」が報道されない日はない。しかし、どこか他人事の人も多いのではないだろうか。地方で行政や企業を支援し続けて5年。私の目にはそう映る。
企業の現場ではFAXがまだまだ現役。社員同士の連絡はいまだに口頭、電話中心。工場や事務所には紙、紙、紙。今はそれでいいかもしれない。しかし、これからはそうはいかない。
2025年時点で6,277万人と推定される労働人口は、2050年には4,864万人まで減少すると言われている。この人口減少の問題は確実に訪れる未来だ。今まで3人で回していた経理が高齢化し、1人、2人と辞める。ハローワークで求人を出しても、半年以上応募が来ない。そんな時代は目の前に迫っている。
そこで我々が取るべき手段はひとつだ。「人が増えないなら、仕事の方を減らす」。経理が3人から1人になったのであれば、労力を3分の1にするしかない。
長野県富士見町。八ヶ岳の山麓に豆腐屋「両国屋豆腐店」は佇む。冷涼な水を使った豆腐は長らく地元で愛されてきた。そんな両国屋の代表から「助けてほしい」と声をかけられたのは2017年のことだった。
実際に事務所を訪問して驚いた。壁一面に手書きの付箋やFAXがびっしりと貼り付けられていた。注文管理、製造計画、出荷、納品、請求、会計処理。これらすべてを代表一人が行う。朝早くから仕込みをし、疲れた体で事務作業をする。夜遅くまで続くこともあった。経理事務を行っていた母親は高齢化し、「そろそろ事務は引退したい」ともこぼしていた。
デジタル化以前は「豆腐のことを2割しか考えられなかった」という。「帰ったら事務作業しなくちゃ、在庫は足りるかどうか、仕入れは大丈夫か」、つまりは豆腐以外のことが8割、頭の中を埋め尽くしていた。代表は「常に黒いモヤが頭の上にある感じ」と表現し、苦しんでいた。
支援の結果、最終的には事務作業を年間600時間削減することに成功した。受注から製造、納品まで「kintone」というクラウドサービスで管理。会計処理はクラウド会計「freee」を利用し、ネットで完結、自動化したことで銀行へ記帳に行くこともなくなり、経理の母親も引退できた。
同店は受注管理、会計、給与計算、販売管理などを軒並みクラウド化した。ポイントは、複数のクラウドサービスを組み合わせて使っている点だ。
近年、クラウド型の様々な業務システムが登場し、会計や勤怠管理、販売管理など、経営者は自分の会社に適したサービスを選択し、組み合わせることで効率化を実現できるようになった。システムは「1からつくる」時代から、「欲しい物を選ぶ」時代へとシフトしたのである。
さて、省力化した両国屋豆腐店の現在はどうなったか?かつて事務作業に消えていた時間は、営業や商品開発など「攻め」の時間に変化した。人口減少が確実にくるこれからの時代。デジタル化というのは「時間づくり」「創造的な活動づくり」そのものである。
「今不要だから」ということでデジタル化を見て見ぬ振りをするのはやめよう。「10年、20年後、必ず必要になる」と知ったあなたは、今日から動き出せるはずだ。
つづく株式会社社長。長野県上田市を拠点に、企業のクラウド化・業務自動化を支援。